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弁護士コラム「ナズナ想」

< 書き初めに遺言書を(令和元年版)  |  一覧へ戻る  |  逮捕の根拠 >

ゴーン氏の出国に危惧すること,期待すること

カルロスゴーン氏が保釈中にもかかわらず日本国外に出たことが,昨年大晦日の大きなニュースでした。
ただ,カルロスゴーン氏が日本国を出国した記録がないそうですが,東京地裁は即日に保釈を取り消したそうです。
紙切れや記録を重視する裁判所が,何を資料として,保釈決定を取り消したのでしょう。

刑事弁護人の立場では,今後の保釈に悪影響を与えないか心配されるところです。
昨年は,何件かの保釈中の行方不明事件がありました。
それらが大きく報道されるので,保釈されると逃げるというイメージが作られているような気がします。
しかし,大部分の保釈された方は裁判所が決めた保釈条件を守っています。
保釈条件を守らない方が珍しいといえます。
「熊本地裁で保釈条件を守って判決を受けました。」という報道を聞いたことがないと思います。
ありふれたことなのでニュースにならないのです。
それに,15億円の保釈金を捨てることができる,入管に察知されることなく国外に出ることができる人の数など,片手ほどもいません。

他方で,カルロスゴーン氏が声明で日本の人質司法を糾弾しています。
EUでは,逮捕されると必ず弁護人が選任されます。
そして,被告人弁護人と会う前に作成された供述調書については,EUの裁判所で証拠とすることができません。
さらに,EUの裁判所は,日本の裁判所のように,捜査機関が作成した供述調書を重視しないそうです。
EUの刑事手続きが現在の状態になったのは,欧州人権裁判所がEU加盟各国の刑事手続が刑事被告人の人権を侵害するとの判断を下したことがきっかけだったそうです。
そのような文化で生活をしていたカルロスゴーン氏にとって,日本の刑事手続きはあまりにも前近代的に感じたのでしょう。
人質司法もさることながら,検察官が手持ち証拠を隠していることにもカルロスゴーン氏が失望したと報道されています。
日本の刑事手続がEU並の刑事手続になるのは,いつの日でしょう。
 

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逮捕の根拠

金曜日の朝に槇原敬之さんが覚醒剤所持の疑いで逮捕されたというニュースが流れました。
そのニュースを伝える朝のワイドショーで,MCの方が,確かな根拠があるのだから裁判所は逮捕状を出すでしょうみたいなことを言っていました。
確かに,疑いがなければ逮捕をしないでしょう。
ただ,手続の段階において,この「疑い」のレベルに違いがあります。
有罪判決を下す段階においては,裁判官の内心において「疑い」は「確信」となっています。
起訴段階では,検察官の中は有罪判決と同程度の「疑い」という言い方をする方もいらっしゃいますが,刑事裁判を維持できる程度の「疑い」があれば足りるという理解が一般的です。このレベルの「疑い」は有罪判決を下す程度のものよりも低いものです。
すると,逮捕段階では,逮捕が許される「疑い」は,起訴段階よりも低いもので足ります。
それに,逮捕は,捜査の初期でなされますので,それほど資料が収集されていないことの方が多いと考えられます。
逮捕しておいて,資料を収集する方が多いです。
もっと言うならば,自白を獲得するため,逮捕することもあります。
私の経験の中には,ほとんど証拠もなく逮捕して,ひたすら自白を求めたものがあります。
結局,その方は起訴されることもありませんでした。
そのような場合でも,すなわち確かな根拠がなくても,裁判所は逮捕状を出します。
件のワイドショーでは,コメンテーターの弁護士が,裁判所は請求されれば逮捕状を出さないことの方が珍しいという趣旨のことを答えていました。
きっと,件のワイドショーは,誤った認識を改めてもらうため,わざわざMCの方に先ほどの発言をさせたのでしょう。

報道人に矜持はあるでしょうか。

熊本県天草市で生後4ヶ月の乳児の脳に障害が生じた件でその父親が傷害の疑いで逮捕されたことが,全国ニュースにまでなって,大々的に報道されました。
しかし,この父親については,不起訴処分となりました。
逮捕されたときの報道に比べ,不起訴処分のニュースのなんと小さいことか。
警察は,有罪を認定する機関ではありません。
有罪と判断するのは裁判所です。
警察は,怪しいと警察が思った人を逮捕しているに過ぎません。
今回の逮捕も,警察・検察の思い込みによる見込み捜査,自白獲得のための逮捕に過ぎませんでした。
そして,何人も有罪判決を受けるまでは無罪であるという原則が刑事裁判にはあります。
これは,刑事手続きにおける最も重要な原則です。
ところが,ある番組のキャスターに及んでは,この父親の年齢が若いことを取り上げ,子どもを育てるには幼いとまで言ってのけています。
完全に犯人扱いです。
このキャスターには,この父親が犯人であると判断する根拠はあったのでしょうか。
繰り返しますが,逮捕されたという事実は,逮捕された人が犯人であることの根拠にはなりません。
このキャスターは,不起訴処分になった父親について,プライドある報道人として,どのようなコメントをされるのでしょうか。
このキャスターに限らず,報道機関は,逮捕の報道と同等の紙面・時間を費やして,自らの報道によりその名誉を失墜させた方の名誉回復に努めるべきです。
報道機関が,警察・検察のスポークスマンに成り下がっているのでなければ,ですが。
 

穏やかなお正月

みなさまは,お正月をどのようにお過ごししましたか。
今年は穏やかな気候で,初「春」の名にふさわしい気候でした。
いにしえの人々は,冬至を過ぎて始めてくる穏やかな気候に「初春」と名付けたのでしょうか。
今年のお正月を穏やかに過ごすことができたのは,私が弁護人となっている方で,留置場,拘置所で年を越している方がいらっしゃらないからでしょうか。
留置場や拘置所で年を越す方の弁護人を務めていると,正月でも何となく気が晴れないものです。
私が弁護人を務めている方は,保釈されていたり,逮捕されても勾留されることなく釈放されていたり,そもそも勾留されていたりで,留置場や拘置所で年を越さずにすんでいます。
保釈では,すべての保釈検察官が抗告と執行停止の申立てをしましたが,裁判所が保釈決定を維持しました。
ちなみに,勾留は,被告人が公判に出頭することを確保することを目的にする制度で,処罰を目的としたり,犯罪を予防することを目的としたりする制度ではありません。
そして,刑事訴訟法の規定の仕方は,保釈することを原則とする規定の仕方をしています。
残念ながら,保釈が例外のような運用がされています。
私が保釈請求した案件は,すべて第1回公判前に,保釈が許可されて,釈放されています。
ここ数年で,裁判所の考え方も変化が見られるように思います。
 


ちなみに弊事務所の通常業務は,1月9日からです。
1月4日からではないので,お間違えないようにお願いします。
 


親の立ち位置

清水アキラさんが,ご長男の清水良太郎さんについて,保釈が許可されたにもかかわらず,保釈させないという判断をしたそうです。
親子関係には様々な形がありますので,十把一絡げの議論は乱暴には思います。
しかし,それでも,私は,清水アキラさんの判断には疑問を持ちます。
もちろん,親子関係に限らないのですが,相手に対して厳しい態度で接しなければならない場面はあるとは思います。
そして,その厳しい態度で接することについて,相手が,その態度が自分の利益のためになされていると考えることができるためには,その前提として,信頼関係があることが必要だと思います。
自分のために厳しい態度で接してくれているんだと,相手が自然と考えられる程度の信頼関係は必要だと思います。
留置場,拘置所にいることはとても苦痛を感じるようです。
私は,国選弁護で,ホームレスの方の刑事事件を短答したことがあります。
そのとき,その方に,留置場から早く出たいのか尋ねたところ,出たいと答えました。
中には,留置場は,寝るところや食事が保障されていて,ホームレス生活よりもずっとましな生活を送ることができる,だから,ホームレスの方は,留置場にいたいと思っていると考えている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし,そうではないようです。
留置場の中では,横になることができないそうです。
そして,常に行動を監視される環境にあります。
一般的には,1時間でも早く出たいと思うような場所です。
その場所から出すことができるのに,出さないというのです。
子どもは,そのとき,親をどのように思うでしょうか。
まさかのときの友が真の友という言葉があります。
子どもが助けを求めているときに手をさしのべない親に対し,子どもが信頼することはないでしょう。
子どもが非行や犯罪をしたとき,親は,甘やかしすぎた,これからは甘やかさないようにしようと考えることがあります。
その方は,胸に手を当てて考えたとき,本当に,子どもに甘えさせていたでしょうか。
非行少年の収容施設にお話を聞きに行ったとき,少年を甘えさせることから始めるという話を聞きました。
甘えさえるという行為にはとてもエネルギーが必要です。
きちんと子どもの話に耳を傾ける,時間も使いますが,子どもを掛け買いのない存在と思う気持ちが必要です。
単に,欲しいというものを買い与えるだけで,子どもの話をまともに聞いていなければ,子どもは,自らが掛け買いのない存在とは思えないでしょう。
自らを掛け買いのない存在と思えない子どもが他人を大切にすることができるわけがないですし,自らを大切な存在と考えることができないのですから,薬物犯罪に対する抵抗も生じにくいといえます。
お子さんが非行や犯罪をしたときには,親御さんには,お子さんを見捨てない,お子さんが掛け買いのない存在であるという明確なメッセージを送ってもらいたいとお思います。

線路逃走

日付が変わって昨日(平成29年5月11日)は,毎月恒例の日弁連(日本弁護士連合会)の会議で,東京に出張していました。
羽田空港から東京モノレール,JR(山手線,京浜東北線),東京メトロ(丸ノ内線)を乗り継いで,霞ヶ関駅のB何番かの出口から出ると,弁護士会館の地階入口から弁護士会館に入ることができ,ほとんど空の下に出ることなく移動できます。
気候に左右されることなく移動できることは助かります。
ところで,11日朝,痴漢の疑いをかけられた男性が,新橋駅から線路に降りて走って逃げたそうです。
新橋駅は,私が羽田空港から弁護士会館に向かう途中にある駅ですので,もう少し早く東京に着いていたら,この騒動に巻き込まれていたかもしれません。
ところで,私は,身に覚えがないのに,痴漢の疑いをかけられたときには,速やかにその場から逃走するべきだと考えています。
痴漢冤罪を取り上げた,周防正行監督による「それでも僕はやっていない」は,決して誇張したフィクションではありません。
あの映画のようなことは,日常茶飯事に起こっています。
そして,痴漢されたという女性の前で,いくら身の潔白を証明しようとしても無理です。
安倍晋三首相が「悪魔の証明」という言葉を使ったので,この言葉を知っている方も増えたかもしれませんが,「存在しない」ものを「存在しない」と証明することは不可能に近いことです。
理屈には,痴漢したと疑ってる人が,疑われている人が痴漢をしたことを証明しなければなりません。
しかし,現実には,無罪の人が,自らの無罪を証明しなければならないような構造になっています。
痴漢冤罪も例外ではありません。
そして,逮捕されると,無条件で72時間は身柄を拘束されます。
家に帰ることも,仕事に行くこともできません。
そして,さらに10日間,場合によってはさらに10日間,身柄を拘束されます。
これを勾留と言います。
勾留は,検察官が公判請求(起訴)した後も続きます。
起訴されると,保釈といって,身柄を解放される制度はあるのですが,起訴された事実について,無罪を主張していると,裁判所は保釈を認めてくれません。
無罪を主張している人は,本当に無罪かもしれないわけですから,早く身柄を解放する必要があるはずなのに,裁判所は,無罪を主張しているという理由だけで,保釈を認めません。
誤解を招く表現ですが,初犯の痴漢程度であれば,たとえ有罪であっても,執行猶予がついて,刑務所に行かなくてもすむ可能性は十分にあります。
それでも,裁判所は,保釈を認めないのです。
そして,刑事裁判の有罪率は,99%です。
すると,痴漢と疑われたときには,とりあえず死にものぐるいで逃げるのが一番良い選択肢だと思います。
ただ,線路を逃げるのは,とてもリスクがあります。
線路を逃げることは,当然のことながら,列車の運行に影響を与えます。
それによる損害が発生します。
損害が発生すれば,賠償を求められます。
その金額たるや,一般的なサラリーマンの年収を遙かに超えるはずです。
そのような損害賠償請求裁判が起こされたというニュースはまだ聞いていません。
しかし,鉄道会社も対策をすることでしょう。
鉄道にも防犯カメラを設置する日も遠い将来でないかもしれません。
もう少し賢い逃げ方を考えなければならないでしょう。
 

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